更新日:2022年3月1日
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あのね、首里の金城というところにあった話ですがね。
お父さんとお母さんを早く失った、兄と妹の二人の兄弟がいました。年頃になると、妹ウターの方は久高島に嫁ぎましたが、一人残されたお兄さんの方は、投げやりの気持ちからか、鬼になってよその家の山羊や豚を盗んできては、食べていました。食べるものがなくなると、人間の子供をさらってきて食べているというウワサが広がり、ウターの住んでいる久高島まで伝わってきました。
ウターは『自分のお兄さんがそんなことをしているとは・・・。家畜なら買うこともできるが、人間の子供はそういうわけにもいかない。なんとかしなければ』と、お兄さんの様子を見にいきました。すると、お兄さんは、「いいところに来たぞ、ウター。今、薬を煎じているからおまえも食べていきなさい」と言うので、「ああそうですか、お兄さん。どんなご馳走かみてみよう」と鍋を開けてみると、ウワサ通りに、鍋には人間の子供が入っていました。
ウターは自分も子供を連れてきていたのでビックリして『アヒー(兄さんは)私の子供も殺しかねない』と思い、子供を負ぶって、「ねえ、アヒー、ちょっと便所まで行ってこようね」と言うと、アヒーはウターが逃げたらいけないと思い、ウターの手に縄をかけました。ウターは賢かったので、手にかけられた縄をはずしフールヤー(豚小屋)の石につないで逃げたが、アヒーは縄を引っ張りながら、「ナーマヤミ、ウター。ナーマヤミ(まだか、ウター、まだなのか)」と言っていました。
ウターが船に乗って行こうとする時、アヒーに追いつかれてしまったので、ウターは急いでサバニをひっくり返し、その下に隠れていました。するとアヒーはそのサバニの上に立ち、「アイヤー、そこまでウターの姿は見えていたのに残念。せっかくのご馳走を逃していまったなぁ」と悔しそうに、足をパンパン踏みならしていました。ウターは『ああ、やっぱり、私たちを食べようとしていたんだなぁ』と、アヒーがいなくなるのを見計らってから、船に乗り島に帰りました。
何日か経ったある日の事、ウターはお兄さんの大好きな餅をつくり、出掛けました。アヒーのものには瓦を入れた餅を作り、自分のものは、本物の餅を作って。そうして、「アヒー、今日はアヒーの好きな餅を沢山作ってきたから、さあ、金城バンタで景色でも眺めながら食べよう」と、おだてて連れていきました。アヒーは瓦の入っている餅でもパクパク食べるのでウターは『本当の鬼になってしまったんだねえ、アヒーは』と悲しくなりました。アヒーは、ウターが着物の裾の前をはだけて座っているのに気付き「おまえの下は何か」と聞くので、「ここは、鬼をたべるところだよ」と答えると同時に、金城バンタから突き落として殺してしまいました。
ウニムーチーは、この話に由来するもので、ウターは村の人々から、「村人全員でかかっても鬼を退治することが出来ないのに、あなたはすごい」と喜ばれ、鬼を退治した餅のこと【チカラムーチー、ホーハイムーチー、カリームーチー】と呼ぶようになり、今でもムーチーを炊いた煮汁は、「ウネーフカ フコーウチ(鬼は外、福は内)」といって屋敷の回りにまき、ムーチーを包んだカーサ(サンニンの葉)は十字に結んで、人の出入りする入口や軒先に吊るし、鬼が家の中に入ってくるのを防ぐようになったんだってさ。
沖縄市文化財調査報告書第26集『むかしばなしⅠ』
2002年沖縄市教育委員会
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